探究的な学習の小学校での実践例を徹底解説
「うちの子の学校でも探究学習が始まったけれど、具体的にどんなことをやるの?」——保護者の方からこうした声をいただくことが増えました。2020年度に全面実施された新学習指導要領により、小学校での「総合的な学習の時間」を中心とした探究的な学習が本格化しています。しかし、実際にどのような授業が行われているのか、イメージしにくいと感じている方も多いのではないでしょうか。
個人的な経験では、探究的な学習に積極的に取り組んでいる学校と、まだ手探り状態の学校との間には大きな差があると感じています。だからこそ、すでに成果を上げている学校の具体的な実践例を知ることが、お子さまの学びを理解し、家庭でサポートするための第一歩になるはずです。
この記事で学べること
- 探究的な学習は「課題設定→情報収集→整理分析→まとめ表現」の4ステップで進む
- 全国5校の実践例から見える成功パターンと具体的な授業内容
- 低学年と高学年では探究テーマの選び方と進め方が大きく異なる
- 家庭での「なぜ?」を探究学習につなげる5つの実践方法
- 教師は「答えを教える人」ではなく「一緒に考える伴走者」として機能する
探究的な学習とは何か
探究的な学習とは、子どもたち自身が課題を見つけ、情報を集め、考え、表現するプロセスを通じて学ぶ教育手法です。
従来の「先生が教え、生徒が覚える」という一方向型の授業とは根本的に異なります。子どもが主体となって問いを立て、自ら答えを探していくのが最大の特徴です。小学校では主に「総合的な学習の時間」を中心に実施されており、教科の枠を超えた横断的な学びが展開されています。
文部科学省の学習指導要領では、探究的な学習のプロセスを明確に4つのステップとして定義しています。この枠組みを理解しておくと、お子さまが学校でどのような段階にいるのかが把握しやすくなります。
課題の設定
人・社会・自然に直接触れ、子ども自身が「なぜ?」「どうして?」という問いを見つける段階
情報の収集
観察・実験・見学・調査・体験活動などを通じて、数値データや五感で感じた情報を集める
整理・分析
集めた情報を構造化し、比較・分類・関連づけをしながら結論を導き出す
まとめ・表現
学んだことを発表・レポート・ポスターなどの形で表現し、他者に伝える力を育てる
この4ステップは一度きりで終わるものではありません。まとめの段階で新たな疑問が生まれ、再び課題設定に戻るという「スパイラル(らせん)構造」で学びが深まっていくのが理想的な形です。
たとえば「地域のゴミ問題」について調べた子どもが、まとめの段階で「なぜリサイクルが進まないのか」という新たな問いを持つ。そこからまた調査が始まる——このサイクルこそが、探究的な学習の本質といえます。
全国の小学校に学ぶ探究的な学習の実践例5選

ここからは、実際に探究的な学習で成果を上げている全国5校の具体的な取り組みをご紹介します。それぞれアプローチが異なるため、お子さまの学校やご家庭の状況に近い事例がきっと見つかるはずです。
茅ヶ崎市立香川小学校(神奈川県)の「バイバイプラスチック」プロジェクト
神奈川県の茅ヶ崎市立香川小学校では、地域のプラスチックごみ問題をテーマにした探究学習「バイバイプラスチック」が実施されています。
この取り組みが優れているのは、子どもたちの学びが教室の中で完結しないという点です。まず地域のフィールドワークを通じてプラスチックごみの実態を調査し、そこから「なぜこんなにプラスチックごみが多いのか」という課題を自分たちで設定します。次に、解決策を考え、実際に地域に向けて提案・実行するところまで進めます。
地域調査→課題設定→解決策の提案→実行という一連の流れを子ども自身が体験することで、教科書だけでは得られない実社会での問題解決能力が育まれます。
環境問題という身近で社会的意義の高いテーマを選んでいることも、子どもたちの学習意欲を高める要因になっています。「自分たちの行動が地域を変えられるかもしれない」という実感は、探究学習ならではの成果です。
戸田市立戸田東小学校(埼玉県)のICT活用型探究学習
埼玉県の戸田市立戸田東小学校では、一人一台端末を活用したICTと探究学習の融合に取り組んでいます。
この学校の特徴は、デジタルツールを単なる調べ学習の道具としてではなく、情報の収集・整理・分析・発表のすべてのプロセスにICTを組み込んでいる点です。一人ひとりが端末を持つことで、それぞれの興味やペースに合わせた個別最適化された探究活動が可能になっています。
たとえば、情報収集の段階ではインターネット検索だけでなく、写真や動画での記録も活用。整理・分析の段階では、デジタルツール上でデータを視覚化し、グループで共有しながら議論を深めます。従来のアナログ的な手法とデジタルを組み合わせることで、より多角的な探究が実現しています。
熊本市立弓削小学校のキャリア教育連携型探究学習
熊本市立弓削小学校では、地域の多様な大人たちとの連携を軸にしたプロジェクト型の探究学習を展開しています。
この学校の取り組みで注目すべきは、キャリア教育との統合です。子どもたちが地域の商店主、農家、医療従事者などさまざまな職業の方々と直接交流しながら探究活動を進めることで、「社会にはどんな仕事があるのか」「自分はどんなことに興味があるのか」という気づきが自然と生まれます。
多様な大人との対話を通じて、子どもたちの視野が大きく広がるという成果が報告されています。学校の中だけでは得られない「生きた知識」に触れることで、探究の質そのものが向上するのです。
大東市立郡穂小学校(大阪府)の構造化された探究学習
大阪府の大東市立郡穂小学校は、探究学習の4ステップを明確に「型」として整理し、どの学年でも一貫した枠組みで実践している点が特徴です。
「課題設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現」という流れを、教師も子どもも共通言語として理解しているため、学年が上がるにつれて探究の深さが自然と増していきます。低学年のうちから「今は情報を集める段階だね」「次は整理してみよう」と意識できるようになることで、探究のプロセスそのものを学ぶ力が育ちます。
この「型化」のアプローチは、探究学習の導入に悩んでいる学校にとって参考になるモデルです。まずは枠組みをしっかり作り、その中で子どもの自由度を確保するという考え方は、多くの教育現場で応用できるでしょう。
開智小学校の発達段階別アプローチ
開智小学校では、子どもの発達段階に応じて探究学習の目標と方法を3段階に分けています。
開智小学校の発達段階別探究学習
小学校低学年(1〜4年生)では「体験から学ぶ」ことを重視し、観察や実験といった五感を使った活動が中心です。「虫はなぜ飛べるの?」「この花はどうして赤いの?」といった素朴な疑問を大切にし、実際に見て、触れて、感じることから探究が始まります。
高学年(5年生以降)になると「広く学ぶ」段階に移行し、テーマの範囲を広げながら、複数の視点から物事を捉える力を養います。この発達段階に応じた設計は、子どもの認知発達の研究に基づいており、無理なく探究力を伸ばせるモデルとして注目されています。
学年別に見る探究的な学習テーマの選び方

探究学習のテーマ選びは、子どもの発達段階によって大きく変わります。ここでは低学年と高学年に分けて、適切なテーマの考え方をお伝えします。
低学年(1〜3年生)に適した探究テーマ
低学年の子どもたちにとって、探究学習の出発点は「なぜ?」「どうして?」という日常の素朴な疑問です。
この年齢の子どもは、抽象的な社会問題よりも、目の前で起きている現象に強い好奇心を持ちます。具体的には以下のようなテーマが適しています。
- 「空はなぜ青いの?」——身近な自然現象への疑問
- 「虫はどうやって飛ぶの?」——生き物への興味
- 「学校の周りにはどんな植物があるの?」——身近な環境の観察
- 「給食の野菜はどこから来るの?」——食と生産のつながり
低学年では、調査の方法も「実際に見る」「触ってみる」「育ててみる」といった体験型が中心になります。文献調査やインターネット検索よりも、五感を使った直接体験を重視することがポイントです。
高学年(4〜6年生)に適した探究テーマ
高学年になると、社会的な課題や地域の問題に目を向けられるようになります。
- 地域のゴミ問題と環境保全
- 交通安全と街づくり
- 高齢者支援と福祉
- プラスチック問題と海洋汚染
- 地域の伝統文化の継承
高学年の探究学習では、テーマを「自分ごと」として捉えられるかどうかが成功の鍵です。先生や親が「これを調べなさい」と指定するのではなく、子ども自身が「これが気になる」「もっと知りたい」と感じるテーマを選べるよう、選択肢を提示しながら導くことが大切です。
探究学習のテーマ選びについては、学年を問わず「子どもの興味」と「社会とのつながり」の2軸で考えると、質の高いテーマが見つかりやすくなります。さらに面白い探究テーマの具体例も参考にすると、発想が広がるかもしれません。
教師の役割はファシリテーターとしての伴走

探究的な学習において、教師の役割は従来の授業とは大きく異なります。
一言でいえば、「答えを教える人」から「一緒に考える人」への転換です。
従来の授業では、教師が正解を持っていて、それを効率よく伝えることが求められていました。しかし探究学習では、教師自身も答えを知らないテーマに取り組むことが珍しくありません。むしろ、答えがすぐに分からない状況こそが、探究学習の醍醐味ともいえます。
具体的に、教師に求められる姿勢は以下の通りです。
直接答えを教えない。子どもが「先生、これはどういうこと?」と聞いてきたとき、すぐに答えを返すのではなく、「どうしたら分かると思う?」「何を調べたらいいかな?」と問い返す。この「問い返し」が、子どもの思考力を伸ばす重要な関わり方です。
「一緒に考える」姿を見せる。教師自身が「先生も分からないから、一緒に調べてみよう」という姿勢を示すことで、子どもたちは「分からないことは恥ずかしいことではない」と感じられるようになります。
子どもの主体性を尊重する。テーマ設定から情報収集の方法、まとめ方まで、できるだけ子ども自身に決めさせる。うまくいかない経験も含めて、すべてが学びになるという信念を持つことが大切です。
家庭でできる探究的な学習の5つのサポート方法
探究的な学習は学校だけのものではありません。家庭での関わり方次第で、子どもの探究力は大きく伸びます。
子どもの「なぜ?」を大切にする
日常生活の中で子どもが発する「なぜ空は青いの?」「どうして氷は浮くの?」という疑問。忙しい日常ではつい聞き流してしまいがちですが、この「なぜ?」こそが探究学習の原点です。
すぐに答えを教えるのではなく、「いい質問だね。どうしてだと思う?」と返してみてください。子ども自身が仮説を立てる力が自然と育まれます。
地域の課題をテーマにする
お住まいの地域には、探究の種がたくさん転がっています。通学路のゴミ問題、近所の空き地の変化、商店街の移り変わり——。子どもと一緒に散歩しながら「何か気になることはある?」と問いかけてみると、思いがけない発見があるものです。
公共施設をフル活用する
図書館、博物館、美術館、科学館といった公共施設は、探究学習の強力な味方です。単に「見学する」だけでなく、事前に調べたい疑問を持って訪れると、学びの深さが格段に変わります。
家族プレゼンの場を作る
子どもが調べたことを家族の前で発表する機会を作ってみましょう。週末の夕食時に5分間だけ「今週発見したこと発表タイム」を設けるだけでも、子どもの表現力とまとめる力が鍛えられます。
答えではなく「考え方」を見せる
親自身が「分からないことを調べるプロセス」を見せることも効果的です。「お父さんもこれ知らなかったから、一緒に調べてみよう」と言って、実際に調べる姿を見せる。この「学ぶ姿勢のモデリング」が、子どもの探究心を最も強く刺激します。
子どもの能力を伸ばすためには、学校と家庭の両方で探究的な姿勢を育てることが重要です。また、早期教育の観点からも、幼少期から「考える楽しさ」を体験させることの意義は大きいといえるでしょう。
探究的な学習を成功させるための評価と課題
探究学習の評価はどうするのか
保護者の方から「探究学習の成績はどうやってつけるの?」という質問をいただくことがあります。
探究的な学習の評価は、テストの点数のような定量的な指標だけでは測れません。文部科学省が示す評価の観点としては、以下のようなものがあります。
探究学習で評価される力
つまり、「何を知ったか」よりも「どのように学んだか」というプロセスが重視されるのが探究学習の評価の特徴です。
導入時に直面しやすい課題と対策
探究的な学習の導入には、いくつかの壁があることも事実です。
うまくいくポイント
- 4ステップの「型」を全校で共有する
- 地域人材との連携体制を事前に構築する
- 最初は小さなテーマから始めて成功体験を積む
- 教師同士が実践を共有する仕組みを作る
つまずきやすい点
- 時間配分が難しく授業が予定通り進まない
- 子どもの自主性に任せすぎて活動が停滞する
- 評価基準が曖昧で教師間にばらつきが出る
- 保護者への説明が不十分で理解を得られない
これらの課題に対しては、先行校の事例を参考にしながら段階的に導入していくことが現実的です。すべてを一度に完璧にしようとするのではなく、まずは1つの学年、1つのテーマから始めて、成功と失敗の両方から学んでいく姿勢が重要です。
STEAM教育の考え方とも通じますが、探究的な学習は教科横断的な視点を持つことで、より豊かな学びにつながります。学力の高い子どもの特徴として「自分で考える力」が挙げられることが多いのも、探究学習の意義を裏付けています。
よくある質問
探究的な学習は何年生から始まりますか?
「総合的な学習の時間」として正式に教育課程に位置づけられているのは小学校3年生からです。ただし、1〜2年生でも「生活科」の中で探究的な要素を含む学習活動は行われています。開智小学校のように、1年生から発達段階に応じた探究学習を実施している学校もあります。
探究学習で子どもの学力は下がりませんか?
「教科書の勉強が減るのでは」と心配される保護者の方は少なくありません。しかし、探究学習で育まれる「自分で考える力」「情報を整理する力」「伝える力」は、教科学習の基盤となる力でもあります。実際に、探究学習に力を入れている学校で教科の学力が低下したという報告は一般的ではなく、むしろ主体的に学ぶ姿勢が教科学習にも好影響を与えるケースが多いようです。
家庭で探究学習をサポートするのに特別な知識は必要ですか?
特別な知識は必要ありません。最も大切なのは、子どもの疑問に対して「一緒に考えよう」という姿勢を持つことです。答えを知らなくても構いません。図書館やインターネットを使って一緒に調べるプロセスそのものが、子どもにとって最高の学びのモデルになります。
探究学習のテーマが見つからないときはどうすればいいですか?
テーマが見つからない場合は、まず日常生活の中で「不思議だな」「もっと知りたいな」と感じることを書き出してみることをおすすめします。ニュースを一緒に見る、散歩しながら周囲を観察する、図書館で興味のある本を自由に選ぶ——こうした活動の中から、自然とテーマが浮かび上がってくることが多いです。
探究学習とプロジェクト学習は何が違いますか?
探究学習は「問いを立て、自ら答えを探すプロセス」を重視するのに対し、プロジェクト学習は「具体的な成果物を作ること」にゴールが設定されている点が主な違いです。ただし、実際の教育現場では両者は重なる部分が多く、茅ヶ崎市立香川小学校の「バイバイプラスチック」のように、探究のプロセスを経て具体的なアクションにつなげるプロジェクト型の探究学習も増えています。
まとめ
探究的な学習は、子どもたちが「自分で考え、自分で学ぶ力」を育てるための教育手法です。
今回ご紹介した5つの実践校の事例からは、環境問題への取り組み、ICTの活用、地域連携、構造化されたプロセス、発達段階別のアプローチと、さまざまな形で探究学習が実現できることが分かります。
大切なのは、どの学校の取り組みにも共通する「子どもの主体性を信じる」という姿勢です。
家庭でできることから始めてみてください。今日の夕食時に、お子さまの「なぜ?」に耳を傾けるところから。その小さな一歩が、探究的な学びの大きな第一歩になるはずです。